目次
はじめに
こんにちは、ディーネットのよろず請負の深見です。
引き続き、LLM(Large Language Model:大規模言語モデル)の設定関連(後編)をお届けします。
後編では、プロンプトについてのお話をしていきます。プロンプトは、AIとの対話において最も重要な要素の一つです。
AI(LLM)への指示文:プロンプト設計の基本
LLMのパラメータは、アプリ開発時に一度設定してしまうと、その後は頻繁に変更することはありません。しかし、このLLMパラメータよりもはるかに大きな効果を持ち、回答精度に決定的な影響を与えるのがプロンプトです。
プロンプトの必要性
プロンプトとコンテキスト
プロンプトは、LLMに対する「文脈付きの指示書」として機能します。人間同士のコミュニケーションでも、相手の背景や状況を理解してから話すように、LLMも適切なコンテキスト(文脈情報)があることで、より精度の高い応答を生成できます。
例えば、単に「説明して」と指示するよりも、「中学生にも理解できるように、具体例を交えて説明して」と指示する方が、求める回答に近い結果を得られます。このコンテキストの提供こそが、プロンプトの本質的な価値なのです。
Difyにおいては、このコンテキストを体系的に管理し、アプリケーション全体で一貫した品質の応答を実現できます。
プロンプトの5つの重要な役割
プロンプトは以下の重要な役割を担っています:
1. 役割定義
AIに特定の専門家としての立場を与える
- 例:「あなたは経験豊富なマーケティングコンサルタントです」
2. 出力形式の指定
回答の構造や形式を明確に定義
- 例:「以下の形式で回答してください:1.概要 2.詳細分析 3.推奨アクション」
3. 制約条件の設定
回答の範囲や条件を限定
- 例:「500文字以内で、専門用語は使わずに回答してください」
4. 品質基準の明示
期待する回答の品質レベルを指定
- 例:「根拠となる情報源を必ず含めて回答してください」
5. 文体・トーンの指定
コミュニケーションスタイルの統一
- 例:「丁寧な敬語で、親しみやすい口調で回答してください」
効果的なプロンプトの構成要素
効果的なプロンプトは通常、以下の要素で構成されます:
1. ロール(役割)設定
あなたは〇〇の専門家として行動してください。
2. タスク(課題)定義
以下の課題について分析し、解決策を提案してください。
3. コンテキスト(背景情報)
対象:中小企業の経営者
業界:IT関連
課題:人材不足による業務効率の低下
4. 制約条件
- 文字数:800文字以内
- 形式:箇条書き
- 根拠:統計データまたは事例を含む
5. 出力例(オプション)
例:
課題分析:〇〇による影響で...
解決策1:〇〇の導入により...
期待効果:〇〇の改善が見込まれる...
プロンプトの種類
システムプロンプト:AIの基本設定
システムプロンプトは、LLMの基本的な動作原則や役割を定義する「基盤となる指示」です。Difyにおいては、アプリケーション全体を通じて一貫して適用される設定として機能します。
特徴:
- アプリケーション起動時に一度設定され、すべての対話で維持される
- ユーザーからは見えない「裏側の設定」として動作
- AIの基本的な人格やスタンス、制約を定義
システムプロンプトの実例:
あなたは親切で知識豊富なビジネスアドバイザーです。
以下のルールに従って回答してください:
1. 常に建設的で実用的なアドバイスを提供する
2. 不確実な情報については「確実ではありませんが」と前置きする
3. 専門用語を使う場合は簡潔な説明を併記する
4. 回答は構造化された形式(見出し、箇条書きなど)で提供する
5. 倫理的・法的な問題がある場合は適切に警告する
回答の文体:丁寧な敬語、親しみやすさを保持
回答の長さ:原則として300-800文字
システムプロンプトの設計ポイント:
- アプリケーションの目的と一致した役割設定
- 一貫性を保つための明確なガイドライン
- ユーザー体験を向上させる制約の設定
- 想定されるすべての使用ケースをカバーする包括性
ユーザープロンプト:具体的なタスク指示
ユーザープロンプトは、個別の質問や要求に対する「具体的な指示」です。システムプロンプトの基盤の上で、特定のタスクを実行するための詳細な指示を提供します。
※ Difyのチャットボットでは登場しません。ワークフローで登場します。
特徴:
- 各対話で動的に変化する
- ユーザーの入力と組み合わせて処理される
- 具体的なタスクや文脈に特化した指示
ユーザープロンプトの実例:
以下の企業情報を分析し、SWOT分析を実施してください:
企業情報:
- 業界:SaaS(顧客管理システム)
- 規模:従業員50名
- 売上:年間3億円
- 主要顧客:中小製造業
- 競合:大手IT企業のサービス
分析結果は以下の形式で出力してください:
【強み(Strengths)】
【弱み(Weaknesses)】
【機会(Opportunities)】
【脅威(Threats)】
各項目について3-5点ずつ、具体的な理由とともに記載してください。
ユーザープロンプトの設計ポイント:
- 必要な情報の明確な提供
- 期待する出力形式の具体的な指定
- 処理すべきデータの構造化
- 判断基準や評価軸の明示
プロンプトエンジニアリング
プロンプトエンジニアリングとは
プロンプトエンジニアリングとは、LLMから最適な結果を得るために、指示文(プロンプト)を体系的に設計・最適化する技術および手法のことです。これは単なる「質問の仕方」を超えて、AIとの効果的なコミュニケーション方法論として確立されつつある重要な分野です。
プロンプトエンジニアリングの5つの核心要素:
- 明確性(Clarity): 曖昧さを排除し、具体的で理解しやすい指示
- 具体性(Specificity): 抽象的な表現ではなく、具体的な要求の明示
- 構造化(Structure): 論理的な流れと整理された情報提供
- 文脈性(Context): 適切な背景情報と状況設定
- 反復性(Iterability): 結果に基づく継続的な改善
主要なプロンプトエンジニアリング手法
Chain-of-Thought(思考の連鎖):
段階的な思考プロセスを促す手法。AIに「考える過程」を明示的に示すことで、より論理的で精度の高い回答を得られます。
以下の問題を段階的に解決してください:
1. まず問題を整理する
2. 次に解決に必要な情報を特定する
3. それぞれの選択肢を評価する
4. 最終的な推奨案を提示する
Few-Shot Learning(少数例学習):
具体例を示して学習させる手法。期待する回答の形式やスタイルを実例で示すことで、一貫性のある回答を得られます。
以下の例を参考に、同様の形式で回答してください:
例1:
質問:「売上が下がっています」
回答:「売上減少の原因分析:1.市場環境 2.競合状況 3.内部要因...」
例2:
質問:「新商品のアイデアが欲しいです」
回答:「商品開発アプローチ:1.市場ニーズ調査 2.競合分析 3.差別化要素...」
あなたの質問:「チームの生産性を上げたいです」
Role-Playing(役割演技):
特定の専門家としての視点を設定する手法。専門知識や経験を活かした回答を得るために効果的です。
あなたは10年以上の経験を持つプロジェクトマネージャーです。
以下の状況において、どのような対策を取りますか?
専門家としての経験と知識を活かして、具体的で実践的なアドバイスを提供してください。
Difyにおけるプロンプトエンジニアリングの利点は、これらの手法をGUIベースで直感的に実装でき、A/Bテストや効果測定も容易に行えることです。開発者は技術的な実装に時間を費やすことなく、プロンプトの品質向上に集中できます。
おわりに
今回は、Difyでの生成AIアプリを開発する際の核となるLLMの設定について、特にプロンプト設計の観点からお話ししました。
設定項目は多岐にわたり、最初は少し複雑に感じるかもしれませんが、まずはデフォルト値や簡単なプロンプトから始めて、徐々に調整していけば良いでしょう。
何よりも重要なのは、実際に手を動かして簡単なアプリを作ってみることです。慣れてくると、使い方は自然に身についてきます。
「Difyを使ってみたいけれど、なかなか大変そう...」と感じる方は、ぜひ当社へご相談ください。
当社ではDify導入をサポートするサービスをご用意しております。詳しくは、以下のURLをご参照ください。
CloudAssist Difyサポートサービス: https://cloudassist.jp/knowledge/use/dify/
今後の予定
次回以降もDify関連の記事を予定しております。ラインナップとしては以下を考えています:
- DifyのRAG機能(Retrieval-Augmented Generation:検索拡張生成)のナレッジベースの詳細説明
- DifyとAmazon Bedrockの組み合わせによる応用例
- DifyのPlugin(プラグイン)機能による拡張方法
- Difyと他のサービス(Slackなど)との連携
- Difyアプリの定期実行方法
- MCP(Model Context Protocol:モデル コンテキスト プロトコル)の活用
不定期での投稿になることはご容赦ください。